来年の手帳が、もう店頭に並びはじめる頃でしょうか。文具店の一角がすっかり入れ替わって、カバーの色や罫線の幅を見比べているうちに、去年のこの時期にも同じ場所で同じことを考えていたな、とふと思い出す——そんな秋を、何度か過ごしてきた方もいらっしゃるかもしれません。
そして家に帰れば、今年の手帳の後ろ半分は白いままで、日記アプリは通知を切ったまま眠っている。「来年こそ続けたい」と思うのと同じくらい、「また同じことになるのでは」という気持ちもある——そんな心当たりはないでしょうか。
この記事では、手帳や日記が続いている人が何をしているのかを一度ほどいてみて、そこから買う前に決めておきたい3つのことと、1月1日を待たずに秋のうちから助走を始める方法をまとめます。
続く手帳は、開く前から「やること」が決まっています
手帳が続いている人を見ていると、開くときに迷っていません。開く前から、今日そこで何をするかが決まっているからです。今日いちばん心が動いたことを1行書く、とか、明日の一手を決める、とか。やることが決まっているので、疲れた夜でも手が伸びます。
ジムに通うのと少し似ています。行ってから今日のメニューを考える人は、だんだん足が遠のきます。行けば何をするか決まっている人は、気が重い日でも、着替えるところまではたどり着けます。決めるという作業がいちばん重たいので、そこを先に済ませてあるかどうかで差がつきます。
このことを頭に置いて、続かなかった手帳を開いてみてください。たいていは最初の2週間だけびっしり書かれていて、そこから急に空白になっているはずです。最初の2週間は、新しい手帳を使うこと自体が目新しくて、それだけで書けてしまいます。ただ、目新しさは2週間ほどで切れます。そのあとに残るのは「今日、ここで何をするのか」だけで、そこが決まっていないと、毎晩ゼロから考えることになります。考えるところから始まる手帳は、忙しい日に開かれません。
もうひとつ、最初の2週間に決めた量は、いちばん元気な自分を基準にした量になりがちです。1日1ページ、予定も感想も全部書く。この分量は、元気な自分にはこなせても、残業で遅くなった夜の自分にはこなせません。書けない日が2日続くと、開くこと自体が気の重い用事に変わります。
そこで、来年に向けて手帳を買う前に決めておきたいのが、次の3つです。何のために書くのか、いつ開くのか、いつ読み返すのか。この3つが決まっていると、あとは手が動くだけの状態になります。順番に見ていきます。日記が続かない理由をもっと細かく分解したものは日記が続かないのはなぜ?7つの理由と、明日から「1行」で続ける方法にまとめていますので、思い当たる節を探したい方はそちらもどうぞ。
買う前に決めること1: 何のために書くかを、1行だけ決めておく
1つめは、レイアウトや文房具を選ぶより先に、この1年で自分がどこへ向かいたいのかを、1行だけ書いておくことです。手帳を買ったら、最初のページでも表紙の裏でも構いませんので、そこに書いてしまってください。
立派な目標である必要はまったくありません。「人の話を最後まで聞ける人になる」でも「体力を戻す」でも「来年こそ転職の準備を終える」でも構いません。途中で変わってもいいので、二重線を引いて日付を添えて書き直してください。
この1行があると、2つのことが楽になります。ひとつは、毎日何を書くかで迷わなくなること。向かいたい場所が決まっていれば、その日の出来事のうちどれを書き留めるかは、自然と選べます。もうひとつは、読み返したときに手応えがあることです。向かう先が書かれていない手帳を読み返すと、そこにあるのは出来事の並びで、「そういえばこんな日もあったな」で終わります。1行あるだけで、同じ並びが「近づいた日」「離れた日」に分かれて見えてきます。
私たちがつくっているふりかえりアプリでも、始めるときに向かいたい場所を書いた方と、書かずに始めた方を比べてみたことがあります。書いた方のほうが、その後に書いた日数はおよそ1.8倍、1か月以上続いた方の割合もおよそ1.7倍でした。もっとも、そういう方はもともとやる気が高いということもありますから、書けば必ず続くという話ではありません。ただ、書く基準を持っている人のほうが迷わずに済むというのは、実感とも合うところです。
1行が決まったら、次は1日に書く量です。おすすめは1日1行。1ページ書いた日が10日あるより、1行書いた日が100日あるほうが、年末に読み返したときに自分の1年がずっとよく見えます。何を書けばいいか分からない日のために、問いをいくつか手元に置いておきたい方はジャーナリングの質問リストが役に立ちます。
書く量を先に決めておくと、手帳選びの基準も変わります。1日1ページの豪華なレイアウトは、空白がそのまま「書けなかった面積」として目に入ってきますが、1日数行のウィークリーや、日付のないフリーページなら、書かなかった日が目立ちません。自分を責めない紙面かどうか——これは意外と、続くかどうかを分ける条件です。
買う前に決めること2: いつ開くかを、時計ではなく行動で決めておく
2つめは、いつ開くかです。ここを「時間があるときに」にしてしまうと、ほぼ確実に書かない日が続きます。時間がある日というのは、思っているより訪れないからです。
コツは、時刻ではなくすでに毎日やっている行動の直後に置くことです。「布団に入ったら」「歯を磨き終わったら」「帰りの電車で座ったら」「コーヒーを淹れたら」。22時と決めるより、歯を磨いたらと決めるほうが、ずっと守れます。時刻は予定に押されて動きますが、歯磨きは毎日必ず起きるからです。
これも、決める作業を減らすための工夫です。毎晩「今日は書こうかな、どうしようかな」と考えるところから始まる形にしていると、その考える時間の分だけ、手帳は開きにくくなります。歯を磨いたら次はこれ、という流れにしてしまえば、考えずに手が動きます。
そしてこのとき、手帳の置き場所も一緒に決めてしまうことをおすすめします。寝る前に書くと決めたなら枕元に、朝に書くと決めたならコーヒーのそばに。書斎の棚に立てたままの手帳は、置き場所のせいで書かれなくなります。書き始めるまでの手数を、1つでも減らしておいてください。朝に書く形が気になる方はモーニングノートのやり方もあわせてどうぞ。
買う前に決めること3: いつ読み返すかを、先にカレンダーに入れておく
3つめが、いちばん飛ばされがちで、いちばん効くところです。書いたものを読み返す日を、書き始める前にカレンダーへ入れておくことをおすすめします。
1行ずつ書いているあいだは、正直なところ何も起きていないように感じます。手応えが出てくるのは、まとめて読み返したときです。1か月ぶんを並べて読むと、「この引っかかり、3回も出てきているな」「先月あれだけ悩んでいたことが、今月は一度も出てこない」といったことが、探しにいかなくても向こうから見えてきます。
この「向こうから見えてくる」体験が、次の月も書き続ける力になります。逆に、読み返す日がないまま書き続けるのは、走った距離を一度も見ないまま走り続けるようなもので、しばらくは頑張れても、だんだん何のために走っているのか分からなくなります。
やり方は簡単で、毎月の最終日曜日など、手帳の月間ページに「読み返す」とだけ先に書き込んでおくだけです。5分で構いません。このとき、決めること1で書いた1行を先に眺めてから読み返すと、手応えがはっきりします。年末には、その月ごとのメモを並べるだけで1年のふりかえりが出来上がっているはずです。1年分をどう振り返るかは1年の振り返りのやり方に、ふりかえりそのものの基本はふりかえりのやり方の基本にまとめています。
1月1日を待たなくていいのです
3つを決めたら、始める日をどうするか、という話が残ります。ここでひとつ提案したいのは、1月1日を待たないということです。
年始は、新しい習慣を始めるにはむしろ条件の悪い時期です。帰省や新年の挨拶で生活のリズムが崩れ、仕事始めの慌ただしさが続き、「今年こそ」の期待だけが高い。そこで1月1日から完璧に始めようとすると、リズムが戻る頃には最初のつまずきを済ませてしまっていることが少なくありません。
それに、手が勝手に動くようになるまでには、どうしても何週間かかかります。1月1日を開始日にすると、いちばん手が動きにくい時期が、そのまま1月に重なります。
それよりも、来年の手帳を手に入れた今日から、今年の手帳の余白や、スマホのメモでいいので1行を始めてみませんか。10月・11月のうちに書き始めておけば、年が明ける頃には1月1日が「スタート地点」ではなく「もう続いているものの通過点」になっています。続いているものを続けるのは、ゼロから始めるよりずっと簡単です。
日記そのものの書き方をもう少し知ってから始めたい方は日記の書き方5選を、来年の目標も一緒に立て直したい方は目標設定のやり方をのぞいてみてください。
チラシの裏に書くか、手帳に書くか
最後に、道具の話をひとつだけ。
同じ1行を書くのでも、チラシの裏に書くのと、手帳に書くのとでは、そのあとが変わります。チラシの裏は書いた瞬間に役目が終わりますが、手帳に書いた1行は、置き場所が決まっていて、順番に並んでいて、あとから探せます。わざわざ手帳を買う意味は、書く気分を上げることよりも、書いたものが自分のところに残る形をつくることのほうにあります。
そう考えると、3つのうち紙の手帳がいちばん苦手なのは3つめだということも見えてきます。何のために書くかは表紙の裏に書けますし、いつ開くかは置き場所で決められます。けれど読み返す日だけは、自分で守り続けるしかありません。去年も一昨年も、そこで止まってしまったのであれば、道具の側に肩代わりしてもらうのも、立派な選択です。
私たちがつくっているStockr(ストッカー)は、1日1行のふりかえりを続けるためのノートアプリです。向かいたい場所を最初に書いてから始める形になっていて、書くのは1行から、通知は自分で決めた時間に届きます。そして書きためた言葉は「再発見」として毎日3件、読み返す日を自分で守らなくても、過去の自分の言葉のほうから、また出会えるようにやってきます。3つめのいちばん続きにくいところを、アプリ側が引き受ける形です。書くことが浮かばない日は、AIの伴走を借りて文章にすることもできます。
来年の手帳を選んでいる今が、いちばん気持ちの乗っている時期でもあります。その勢いのまま、今夜の1行から始めてみませんか。