11月に入ると、年末に向けて仕事の締め切りや予定が少しずつ重なってくるころです。資料をつくっている途中で、返していないメールや、明日の打ち合わせのことがふと頭に浮かぶ。さっき読んだ一文の内容がもう抜けていて、同じ行を何度も読み直してしまう。そんな日が増えてきたと感じる人もいるのではないでしょうか。
頭の中で情報を一時的に置いておき、それを使って考えたり作業したりする働きを、ワーキングメモリと呼びます。よく「頭の作業台」にたとえられる働きです。この記事では、頭にあることを全部書き出し、いちばん気になっていることを気持ちまで書き、次の一歩を1行だけ決める、毎日5分のワーキングメモリのトレーニングを紹介します。
ワーキングメモリのトレーニングは、何のためにするのか
作業台の広さには限りがあるので、やることや心配ごとがたくさん載っていると、目の前の作業を広げる場所が足りなくなります。忙しい日に集中できなかったり、簡単な計算でつまずいたりするのは、作業台そのものが狭いからというより、別のものが場所を取っているからかもしれません。
そこでこのトレーニングでは、作業台を広げようとするのではなく、載っているものを一度外に出すことを目指します。気がかりを書き出して、頭の外に置き場所をつくる。そのうえで、いま取り組むことに作業台を使う。毎日くり返すのは、頭がいっぱいになったときに、自分で作業台を片づけられるようになるためです。
気がかりを書き出すと、頭の作業台に余裕ができる
心配ごとを書き出すと、頭の働きは本当に変わるのでしょうか。これを確かめるために、アメリカの大学の研究チームは、大学生71人に、2週間で3回、1回20分の書く課題をしてもらいました。半分の学生には、大学生活が始まったことへの思いや気持ちを深く書いてもらい、残りの学生にはその日にしたことを書いてもらいました。そして書く前と、書き終えて1週間後・7週間後に、頭の中で情報を覚えながら別の作業をこなすテストを受けてもらったのです。すると、1週間後には差がなかったものの、7週間後には思いや気持ちを書いた学生のほうが、小さいながらも点数を伸ばしていました。
同じチームの別の実験では、つらい出来事を書く学生、とても楽しかった出来事を書く学生、その日の予定を書く学生に分けて比べました。すると、つらい出来事について書いた学生だけが、その出来事が勝手に頭に浮かんだり、考えないように避けたりすることが減り、テストの点数も上がっていました。点数の伸びは、そうした考えが減った場合に見られていました。つまり、書くことで気がかりが頭に浮かびにくくなった人ほど、作業に使える余裕が戻っていた、ということです。
もう1つは、大事な試験の直前に、その試験についての心配を書き出すとどうなるかを調べた研究です。別の研究チームは、大学生に2回の計算テストを受けてもらい、2回目の前に「成績しだいでお金がもらえる」などと伝えて緊張する状況をつくりました。そして2回目の直前に、半分の学生には試験についての気持ちを10分間書いてもらい、残りの学生には静かに座って待ってもらいました。すると、待っていた学生は1回目より正答率が下がった一方で、書いた学生は正答率が上がっていました。試験と関係のないことを書いても同じ効果は出なかったので、効いたのは書くことそのものではなく、その試験についての気持ちを書いたことでした。アメリカの高校で、入学して最初の期末試験を受ける生徒たちに試したときも、ふだんから試験への不安が強い生徒のうち、直前に気持ちを書いた生徒は、不安の弱い生徒と同じくらいの点数をとっていたと報告されています。心配ごとが頭の作業台を占めてしまうところを、書き出すことで軽くできた、と研究チームは考えています。
どちらの研究も、学生を対象に、ワーキングメモリのテストや試験の点数を測ったもので、この記事の3つのステップを組み合わせた書き方そのものを確かめたわけではありません。1つ目の研究は、20分ずつ何回か書いたあと数週間かけて表れた変化で、2つ目は、集中したい試験の直前に、その試験への気持ちを書いた場合の効果です。この記事の5分の書き出しは、2つ目に近い形を毎日の作業の前に試し、1つ目のようにくり返していくための練習です。
毎日5分、気がかりを書き出す3つのステップ
書く時間は、集中したい作業の直前がおすすめです。試験の直前に気持ちを書いた研究にならった時間帯です。朝の仕事を始める前でも構いません。紙でもスマホでも構いません。きれいに書く必要はないので、思いついた順に書いていきます。
ステップ1:頭にあることを、全部書き出す(2分)
いま頭の中にあることを、やること・気になっていること・なんとなくのモヤモヤに分けずに、思いついた順に1行ずつ書き出します。「こんなことを書いても」と迷うものほど、書いておくのがポイントです。書き出す目的は、整理することではなく、頭の外に置き場所をつくることです。
例:A社への見積もりの返信/明日の打ち合わせの資料がまだ半分/週末の実家への連絡/さっきの上司の一言が気になっている/年末の休みの予定
ステップ2:いちばん気になっていることを1つ選び、気持ちまで書く(2分)
書き出したものの中から、いちばん頭の中で場所を取っているものを1つ選びます。そして、それについて「何が気になっているのか」「どう感じているのか」を、2〜3文で書きます。先に紹介した研究で効果が見られたのは、出来事を並べるだけでなく、そのときの思いや気持ちまで書いた人たちでした。
例:上司に「この数字の根拠は?」と聞かれて、うまく答えられなかった。怒っている様子ではなかったけれど、準備が足りないと思われたかもしれない、と気になっている。
ここまで書くと、さっきまで頭の中でくり返していたことが、目の前の紙の上に移ります。毎日同じ場所に書いておくと、1週間後に読み返したとき、自分の作業台をいつも何が占めやすいのかが見えてきます。
気がかりの書き出しを、毎日ここに。1週間分をあとで読み返せます。今日から始めるステップ3:次の一歩を1行だけ決めて、作業に戻る(1分)
最後に、ステップ2で選んだことについて、次にすることを1行だけ決めます。「いつ」「何をするか」が入っていれば十分です。すぐに手をつけられないことでも、次の一歩を書いておけば、覚えておこうとし続ける負担を少し手放せます。
例:明日の打ち合わせの前に、数字の出どころを3行でメモしておく。
書き終えたら、残りの気がかりは書いた場所に置いたままにして、まずは目の前の作業に戻ってみてください。
続けるときの3つのコツ
頭がいっぱいだと感じたら、その場で書く。決まった時間に書くのが難しい日は、同じ行を読み直してしまったときや、作業の途中で別のことが浮かんだときを合図にしてみてください。ステップ1だけでも、作業台の上を少し片づけられます。
気持ちを書くのが難しい日は、「気になっている」とだけ書く。ステップ2で何を感じているのかがはっきりしない日もあります。そんな日は「なぜか気になっている」と書くだけでも構いません。気持ちに名前をつける練習は、感情の言語化トレーニングで紹介しています。
週に1回、ステップ1の書き出しを読み返す。7日分を並べると、毎日のように出てくる気がかりが見つかります。何日も出てくるものは、時間をとって片づけるか、誰かに相談するかを決めると、作業台の上が軽くなります。
頭を整える、隣の書き方
書き出したものを、もう少し整理してから動きたい日は、思考整理のやり方が参考になります。朝のうちに頭の中を空にしておきたい人には、モーニングノートのやり方もおすすめです。書き出したことを短くまとめる練習をしたいときは、要約力を鍛えるトレーニングも読んでみてください。
ワーキングメモリのトレーニングにアプリを使うなら
頭がいっぱいのときほど、ノートを探して開くのはおっくうになります。スマホで書けるアプリを選ぶなら、思いついたことをすぐに書き始められることと、前に書いた記録にあとで出会えることの2つを目安にしてみてください。
5分の書き出しから、ワーキングメモリのトレーニングを。StockrをはじめるふりかえりジャーナリングアプリのStockrは、出来事や気づきを1行から残せるアプリです。「出来事」「感じたこと・考えたこと」「学んだこと」の順に書ける型があります。頭にあることの書き出しといちばん気になっていることは「出来事」に、そのときの気持ちは「感じたこと・考えたこと」に書き、次の一歩は最後の欄に1行で残せます。何が気になっているのかが言葉にならない日は、AIと話しながら頭の中を整理することもできます。書いた記録は「再発見」で毎日届くので、少し前に頭をいっぱいにしていた気がかりに、また出会えることがあります。そのころの心配が、いまはもう片づいていると気づくこともあるかもしれません。Stockrは7日間の無料体験から始められます。
今日、頭の作業台に載っているものを書き出してみる
頭にあることを全部書き出し、いちばん気になっていることを気持ちまで書き、次の一歩を1行だけ決める。毎日くり返すうちに、頭がいっぱいになったときにも、自分で作業台に余裕をつくって、目の前のことに戻れる日が増えていくかもしれません。
まずは今日、集中したい作業の前に5分だけ、いま頭に浮かんでいることを書き出すところから始めてみてください。