「あのとき、もう少し落ち着いて言えたらよかったのに」。会議のあとや帰り道に、そう思い返すことはないでしょうか。そのとき自分の中で何が起きていたのかを言葉にしようとしても、出てくるのは「イライラした」「モヤモヤする」くらいだったりします。
気持ちが大きく動いたその瞬間に冷静になるのは、誰にとっても難しいものです。それでも、あとから気持ちに名前をつけることなら、練習するほど上手になっていきます。この記事では、毎日5分でできる「感情の言語化トレーニング」を、そのまま使える言い換えの表と一緒に紹介します。
気持ちを抑えるのではなく、気持ちの中身を知るための練習
感情をコントロールしたいと思うと、怒りや不安をぐっと我慢する練習を思い浮かべるかもしれません。この記事で紹介するのは、我慢する練習ではありません。「今の自分は、イライラしているというより、焦っているんだな」と、気持ちの中身に気づく練習です。
中身がわかると、その気持ちが何を知らせているのかが見えてきます。焦りなら予定を見直す、悔しさならもう一度やり方を考える、というように、次にどうするかを自分で選びやすくなります。気持ちを手がかりにして、次の行動を自分で決められるようになること。それがこのトレーニングの目的です。
気持ちに合う言葉を探すことの、小さな効果
気持ちを言葉にすることについては、アメリカの大学の研究チームが行った実験があります。怒った顔やおびえた顔の写真を大人に見てもらい、その顔に合う気持ちの言葉を選んでもらいました。すると、写真を見て男女を見分けるだけのときに比べて、感情に反応する脳の働きがおだやかになっていたのです。気持ちにぴったりの言葉を探すだけで、気持ちの揺れが少ししずまるのかもしれません。
ただ、この実験は写真を見て言葉を選んだときの反応を調べたもので、日記に書いたときのことまでは確かめていません。脳の仕組みの説明も、ここではかなり省いています。また、つらい出来事などを書いたり話したりする実験146件をまとめた別の分析でも、書いた人のほうが心の状態がわずかによくなるという結果でしたが、その差は小さなものでした。一度で効く方法ではないからこそ、無理なく毎日続けられる短い練習にしておくことが大切です。
「イライラ」を、もう少し細かい言葉に言い換えてみる
同じ「イライラした」でも、その中身は日によって違います。急な頼まれごとで焦っていた日もあれば、思うように進まず悔しかった日もあるでしょう。中身が違えば、次にとるとよい行動も変わってきます。
言い換えには、次の表を使ってみてください。左がいつもの一言で、右がその中身になりそうな言葉の候補です。正解を選ぶ必要はないので、「これが近いかな」と思えるものをひとつ選べば十分です。
| いつもの一言 | 中身になりそうな言葉 |
|---|---|
| イライラする | 焦っている/悔しい/心細い/余裕がない |
| モヤモヤする | 納得していない/言いそびれた/決めきれていない/何が気になるのか分からない |
| ムカつく | 悔しい/恥ずかしい/期待が裏切られた/ばかにされた気がする |
| 不安 | 心配/落ち着かない/失敗が怖い/ひとりで抱えている |
| 落ち込む | がっかりした/寂しい/情けない/自信がなくなった |
| 疲れた | 気を張っていた/やることが多すぎる/気持ちが休まらなかった/認められていない気がする |
表にない言葉が浮かんだら、ぜひ自分で書き足してください。書き足した言葉が、そのままあなた専用の言い換えの辞書になっていきます。
毎日5分、気持ちに名前をつける3つのステップ
ステップ1:気持ちが動いた出来事を1行で書く(1分)
その日、気持ちが動いた場面をひとつ選んで、何があったかだけを書きます。この時点では、気持ちはまだ書かなくて大丈夫です。
例:15時の会議で、資料の修正を急に頼まれた
ステップ2:いつもの一言を、細かい言葉に言い換える(2分)
まず「イライラした」のような、いつもの一言を書きます。そのあと表を見ながら、中身になりそうな言葉をいくつか書き出して、いちばん近いものに丸をつけます。
例:イライラした → 焦っていた/悔しかった/○余裕がなかった
ステップ3:「〜だったから、〜と感じた」の1文にまとめる(2分)
選んだ言葉を使って、きっかけと気持ちを1文でつなげます。ここまで書くと、「イライラ」というひとかたまりだった気持ちが、中身のある言葉に変わります。
例:予定が詰まっているところに急に頼まれて、余裕がなく焦っていた
時間があれば、次にどうするかもひとつ書き添えてみてください。「明日、期限を確認する」「今日は早めに休む」のような小さなことで構いません。
続けるための3つのコツ
正しい言葉を探しすぎない。仮に置いた言葉で十分です。数日後に読み返して、もっと近い言葉が見つかったら、そのとき書き直せば大丈夫です。
気持ちが強い日は、短く終える。出来事を1行と、近い言葉をひとつ書いたら、その日はそこまでで構いません。つらさが何週間も続く、眠れない日が続くなど、毎日の生活に影響が出ているときは、書く練習の範囲を超えています。医師や専門の相談窓口に相談してください。
ときどき読み返す。何日分かを並べて読むと、同じ言葉がくり返し出てくることに気づきます。たとえば「余裕がなかった」が多ければ、気持ちより先に、予定の詰め込み方を見直すきっかけになります。読み返しを続ける工夫はメモを見返す習慣で紹介しています。
言語化の練習を広げるなら
気持ちに名前をつける練習は、考えていることを言葉にする練習にもつながっています。「要するに何が言いたいのか」を掘り下げる書き方は言語化力を鍛える毎日5分の習慣で、頭の中が散らかっているときの整え方は思考整理のやり方で紹介しています。
感情の言語化トレーニングにアプリを使うなら
気持ちが動いたときにすぐ書けるように、スマホで続ける方法もあります。選ぶときは、書き始めるまでの手間が少ないことと、あとから読み返しやすいことの2つを目安にしてみてください。
ふりかえりの習慣化を、AIが伴走する。StockrをはじめるふりかえりジャーナリングアプリのStockrは、出来事や気づきを1行から残せるアプリです。「出来事」「感じたこと・考えたこと」「学んだこと」の順に書ける型があるので、ステップ1の出来事は「出来事」に、ステップ2と3で見つけた気持ちは「感じたこと・考えたこと」に書けます。言葉が出てこない日は、AIと話しながら文章にまとめることもできます。書いた記録は「再発見」で毎日届くので、数日前の自分の言葉に、また出会えます。Stockrは7日間の無料体験から始められます(無料プランはありません)。
今日の気持ちに、ひとつ名前をつけてみる
気持ちは、抑えこむものではなく、中身を知ることで手がかりにできるものです。いつもの「イライラ」を少し細かい言葉に言い換えて、「〜だったから、〜と感じた」の1文にする。毎日5分のこのくり返しが、感情の言語化トレーニングになります。
まずは今日、気持ちが動いた場面をひとつ思い出して、出来事を1行書くところから始めてみてください。