人に説明しているうちに、「あれ、ここはどうしてだったかな」と自分で分からなくなったことはないでしょうか。会議で経緯を話し始めたものの途中で言葉に詰まる。報告のメールを書きながら、「いろいろあって」とぼかして先に進んでしまう。分かっているつもりのことほど、いざ説明しようとすると、つながっていない所が出てくるものです。
説明で詰まるのは、話し方より、説明する中身のつながりが自分でも見えていないときが少なくありません。そこでこの記事では、毎日5分の説明力トレーニングを紹介します。その日の出来事を1つ選び、その場にいなかった人に向けて5文以内で説明を書きます。そして、詰まった所に印をつけ、1つだけ確かめて書き足します。
説明力のトレーニングは、何のためにするのか
ここでいう説明力は、なめらかに話す力ではありません。相手が知らないことを、相手が分かる順番と言葉で伝える力です。
「なぜそうなったのか」を自分でもつなげられていないまま話し始めると、途中で詰まったり、ぼかしたりすることになります。このトレーニングでは、上手に話す技術を磨くことより、説明してみて「分かっていない所」を見つけることを大事にします。見つけた所を確かめて埋めることをくり返し、説明する練習を、自分の理解を確かめる練習としても使います。
説明しようとすると、分かっていない所が見えてくる
アメリカの大学の研究チームが、大学生や大学院生に、身近な道具の仕組みをどのくらい分かっていると思うか、点数をつけてもらいました。次に、その仕組みを順を追って書いて説明してもらい、もう一度点数をつけてもらいました。すると、書いたあとの点数は書く前より下がりました。つまり、説明を書こうとして初めて、分かっているつもりだった所に気づいたということです。
この思い違いは「なぜ・どうやって」を説明するときに強く出ました。出来事の流れや事実を思い出すときには、弱かったと報告されています。
別の研究チームは、「自分で説明しながら学ぶ」方法を試した64の研究、約6,000人分をまとめて比べました。何も説明しない場合や、先生の説明を聞いたり読んだりする場合より、自分で説明したほうが、あとのテストの成績が良くなっていました。説明の多くは、書いて行われていました。
1つ目の研究が測ったのは「どのくらい分かっていると思うか」の点数で、2つ目は学んだあとのテストの成績です。どちらも、仕事の説明がうまくなるかを測ったものではありません。ただ、説明で詰まる原因が理解の穴にあるなら、説明を書いて穴を見つけ、確かめて埋めることは、説明力の土台を整える練習になります。以下の3つのステップは、この考え方でつくっています。
毎日5分、説明力を鍛える3つのステップ
題材は、その日の自分の1日です。会議で決まったこと、うまくいったこと、困ったことなど、中身をいちばんよく知っている出来事から選びます。
ステップ1:今日の出来事から「説明すること」を1つ決める(1分)
その日の出来事から1つ選び、「何を説明するか」を1行で書きます。「なぜそうなったのか」「どうやって決まったのか」を含む出来事を選びます。先の研究で、分かっているつもりの思い違いが強く出たのは「なぜ・どうやって」の説明でした。出来事の流れを並べるだけでは、詰まる所が見つかりにくいからです。
例:今日の会議で、提案の締め切りが1週間延びた理由を説明する
ステップ2:その場にいなかった人に向けて、5文以内で書く(3分)
読み手は、その場にいなかった人にします。同じ部署の人でも、家族でも、半年後の自分でも構いません。「例の件」「いつもの流れ」のような、その場にいた人にしか通じない言葉は使わずに書きます。順番は、結論、理由、具体的な例の順にして、全体で5文以内にまとめます。
例: 提案の締め切りが、来週の金曜日まで1週間延びました。 先方の担当者が、社内の予算の確認に時間がかかると言ったからです。 予算の確認が済まないと、こちらも提案の金額を決められません。 たとえば、今の案では3つの価格の案を並べていますが、1つに絞れずにいました。 延びた1週間で、先方の予算に合う案を1つに絞ります。
書いている途中で手が止まった所や、「なんとなく」「いろいろ」でぼかした所があれば、そのまま書き進めて構いません。そこが、次のステップで使う材料になります。先の研究のように、自分の言葉で書いて説明すること自体が、理解を深める練習にもなっています。
その日の説明を毎日同じ場所に残しておくと、あとで読み比べやすくなります。
今日の5文の説明と、詰まった所の印を、毎晩ここに。7日分を読み比べられます。今夜から始めるステップ3:詰まった所に印をつけ、1つだけ確かめる(1分)
書き終えたら、5文を読み返して、詰まった所に印をつけます。目安は3つです。1つ目は、理由を書こうとして手が止まった所です。2つ目は「いろいろ」「なんとなく」のようにぼかした言葉、3つ目は自分でも「本当にそうかな」と思った所です。先に紹介した研究で点数が下がったのは、こうした所に気づいたからだと考えられます。
印をつけた所から1つだけ選び、どう確かめるかを1行で書いておきます。資料を見直す、翌日に関係者に聞く、自分で考え直す、のどれでも構いません。答えが分かったら、その日の記録に書き足します。
例:「社内の予算の確認」に印。何の確認なのかを自分でも説明できなかった。→ 翌日に聞くと「来期の予算枠がまだ決まっていない」だった
1日に確かめるのは1つだけにします。全部を埋めようとすると5分では終わらず、続かなくなるからです。
続けながら効果を高める3つのコツ
結論の1文目を、ひとことで言えるか確かめる。ステップ2の1文目が長くなる日は、何を説明したいのかがまだ決まっていないことがあります。「つまり、〜ということ」と言い直せるかを試してみてください。
同じ出来事を、別の読み手に説明し直す。同じ部署の人に向けた説明を、仕事の内容を知らない家族に向けて書き直すと、使っていた専門用語や省略に気づけます。相手が知らないことを補う練習になります。
1週間に1回、7日分の印を読み比べる。週末に7日分の説明を読み返すと、自分がどこで詰まりやすいかが見えてきます。理由をつなぐ所で止まりやすいのか、数字や事実の確認が足りないのか、自分の傾向が分かると次の1週間の練習が変わります。週のふりかえり方は1週間の振り返りのやり方で紹介しています。
説明力の隣にある力も、同じ手順で鍛えられる
ステップ2で結論の1文が書けない日は、伝えたいことを選び切れていないのかもしれません。たくさんの出来事から大事なことを選ぶ練習は、要約力を鍛えるトレーニングで紹介しています。書いた文章を読み手に伝わる形に整える練習は、文章力を鍛えるトレーニングが参考になります。うまく言葉にならない気持ちや考えを言葉にしていく練習は、言語化力を鍛える毎日5分の習慣で紹介しています。
説明力のトレーニングにアプリを使うなら
毎日続けるなら、スマホで書けると手間が減ります。選ぶときは、短く書き始められることと、前の日までの記録を読み返しやすいことの2つを目安にしてみてください。コツで紹介した「7日分の印を読み比べる」がしやすくなります。
今夜の5文の説明から、説明力のトレーニングを。StockrをはじめるふりかえりジャーナリングアプリのStockrは、出来事や気づきを1行から残せるアプリです。「出来事」「感じたこと・考えたこと」「学んだこと」の順に書ける型があります。ステップ2の説明は「出来事」に、ステップ3で確かめて分かったことは「学んだこと」に残せます。うまく言葉にならない日は、AIと話しながら説明をまとめることもできます。書いた記録は「再発見」で毎日届くので、少し前に詰まった所に、また出会えることがあります。Stockrは7日間の無料体験から始められます(無料プランはありません)。
今夜、1つの出来事を5文で説明してみる
その日の出来事を1つ選び、その場にいなかった人に5文以内で説明を書き、詰まった所を1つ確かめる。毎日くり返すと、自分がどこで詰まりやすいかが分かり、説明の土台が整っていきます。
まずは今夜、今日いちばん「なぜ」を含む出来事を1つ選ぶところから始めてみてください。