「あなたが大切にしている価値観は何ですか」と聞かれて、すぐに答えられるでしょうか。
転職の面接で聞かれて言葉に詰まった。キャリアの面談で書いてくださいと言われて、ペンが止まった。ネットで価値観リストを見つけて眺めてみたものの、「誠実」も「成長」も「家族」も、どれも大事に見えて選べなかった。そんな経験から、この記事にたどり着いた人もいるかもしれません。
この記事では、自分の価値観を一覧から「選ぶ」のではなく、自分の出来事の中から「見つける」やり方を紹介します。手順は、心が動いた場面を書き出す、迷った場面で選んだほうを書く、3つの言葉を選んで1週間確かめる、の3つです。言葉を選ぶときに使える価値観リスト50と、記入例3人分もまとめました。ノートとペンか、スマホのメモを用意して読み進めてみてください。
価値観は「選ぶ」より「見つける」ほうが、自分の言葉になる
価値観リストを見ても選べないのは、よくあることです。一覧の言葉は、どれも「良いこと」として書かれているので、並べて見るとどれも大事に見えるのが自然です。
人の価値観について長く研究してきた心理学者のシャローム・シュワルツは、価値観の特徴をいくつか挙げています。その中に、この記事の手順の土台になる説明が2つあります(Schwartz, 2012)。
ひとつは、価値観は気持ちと切り離せないということです。大切にしていることが関わる場面になると、人はうれしくなったり、腹が立ったりします。
もうひとつは、ふだんの判断で価値観を意識することはめったになく、大切なもの同士がぶつかったときに意識にのぼるということです。どちらも大事なのに、どちらかしか選べない。そういう場面で、自分が何を先にしているかが表に出ます。
だとすると、価値観を知る近道は、言葉の一覧を眺めることではなく、自分の気持ちが動いた場面と、迷った場面を思い出すことです。シュワルツは、価値観には人それぞれの優先順位があるとも述べています。全部が大事なのは本当でも、その中に順番はある。その順番を、自分の出来事から確かめていきましょう。
自分の価値観を知る3つの書き方
ステップ1:心が動いた場面を3つ書き出す(10分)
最近1か月くらいを思い出して、気持ちが大きく動いた場面を3つ書き出します。うれしかった場面だけでなく、腹が立った場面や悔しかった場面も入れてください。価値観は、それが守られたときにはうれしさとして、踏みにじられたときには怒りやもやもやとして表に出るからです。
それぞれの場面に、次の2つの質問で答えを書き足します。
- その場面で、何が守られた(または、踏みにじられた)と感じた?
- それが守られることは、自分にとってなぜ大事?
たとえば「会議で、後輩の案が最後まで聞かれずに流されて、腹が立った」なら、踏みにじられたのは「一人ひとりの考えが聞かれること」かもしれません。ここではまだ、きれいな言葉にしなくて大丈夫です。自分が口にしそうな言葉のまま書いておきましょう。
ステップ2:迷った場面を1つ書き、選んだほうを書く(10分)
次に、最近「どちらにするか」で迷った場面を1つ思い出します。残業を引き受けるか、家に早く帰るか。誘われた飲み会に行くか、一人で休むか。新しい仕事に手を挙げるか、いまの仕事を丁寧に続けるか。小さな迷いで構いません。
書くのは次の3つです。
- 何と何の間で迷った?
- 結局、どちらを選んだ?
- 選ばなかったほうの、何が惜しかった?
迷ったということは、どちらにも大切なものがあったということです。そして選んだほうには、そのときの自分がより先にしていたものが出ています。選ばなかったほうの「惜しかったこと」も、消えた価値観ではありません。2番目、3番目に大切なものとして、メモに残しておきましょう。
ステップ3:3つの言葉を選んで、1週間確かめる(1週間・毎晩1分)
ステップ1と2で書いた言葉を見ながら、下の価値観リストから近い言葉を探し、3つだけ選びます。リストにぴったりの言葉がなければ、自分で作って構いません。
選んだ3つには、それぞれ自分なりの意味を1行添えます。たとえば同じ「誠実」でも、「約束を守ること」なのか、「できないことを、できないと言えること」なのかで、意味はかなり違います。この1行があると、借りてきた言葉が自分の言葉に変わります。
最後に、1週間だけ確かめます。毎晩寝る前に、「今日、3つのうちどれが動いた?」を1行で書いてみてください。1週間たって一度も出てこない言葉は、本当は別の言葉だったのかもしれません。逆に、リストになかった言葉が何度も出てきたら、それが入れ替えの候補です。週末にまとめて確かめたいときは、1週間の振り返りのやり方の3ステップもあわせて使えます。
価値観リスト50(10のグループ別)
言葉を選ぶときに使えるリストです。シュワルツが整理した10の価値のグループを手がかりに、ふだん使う言葉で5つずつ例を並べました。言葉の選び方はこの記事の例で、研究で使われる質問票そのものではありません。
| グループ | 言葉の例 |
|---|---|
| 自分で決める | 自由/自分らしさ/好奇心/創造/自分で考える |
| 新しい刺激 | 挑戦/変化/冒険/わくわく/新しい経験 |
| 楽しむ | 楽しさ/心地よさ/ゆとり/遊び心/おいしいものを味わう |
| 達成する | 成長/達成/成果/向上心/認められること |
| 影響を持つ | 影響力/責任/リーダーシップ/豊かさ/自分の場所を持つ |
| 安心・安定 | 安心/健康/安定/秩序/備え |
| 調和・礼儀 | 礼儀/約束を守る/周りとの調和/信頼される/謙虚さ |
| 受け継ぐ | 伝統/ふるさと/感謝/ていねいな暮らし/大切な習慣を続ける |
| 身近な人を大切にする | 家族/友情/思いやり/誠実/助け合い |
| 広く世界を大切にする | 公平さ/多様性/自然/平和/広い視野 |
シュワルツは、これらのグループが互いに引っぱり合う関係にあることも示しています。たとえば「新しい刺激」と「安心・安定」は、同じ行動で両方を満たすのが難しい組み合わせです。ステップ2で迷った場面が、ちょうどこうした組み合わせの間だった、ということもよくあります。どちらが正しいということではなく、どちらもあなたの中にあり、時期や場面によって前に出るほうが変わります。
記入例3人分
記入例1:営業職・入社5年目
- 心が動いた場面:お客さんから「あなたに頼んでよかった」と言われてうれしかった/上司が数字だけで後輩を評価していて、もやもやした
- 迷った場面:締め切り前の夜、自分の資料を仕上げるか、後輩の相談に乗るか→相談に乗った。惜しかったのは、自分の資料の出来
- 選んだ3つ:信頼される(頼まれたことを、相手の期待より少し先まで返す)/助け合い(困っている人に、自分から声をかける)/成果(自分の仕事にも、最後まで手を抜かない)
記入例2:子育て中・時短勤務
- 心が動いた場面:子どもが一人で靴をはけたとき、思わず声が出た/平日に自分のための時間が一度もなく、日曜の夜にいらいらした
- 迷った場面:週末の朝、家族で出かけるか、一人で本を読む時間を取るか→1時間だけ一人の時間を取ってから出かけた
- 選んだ3つ:家族(できるようになった瞬間を、そばで見ていられること)/ゆとり(1日に15分でも、自分のための時間があること)/健康(無理をしない日をつくれること)
記入例3:大学院生
- 心が動いた場面:実験がうまくいかなかった理由が分かった瞬間、時間を忘れた/ゼミで、根拠のない意見が通っていくのが悔しかった
- 迷った場面:就職先として、安定した大企業と、小さな研究開発の会社のどちらを第一志望にするか→まだ迷っている。惜しいのは、大企業のほうの「安心」
- 選んだ3つ:好奇心(分からないことを、分かるまで追いかけること)/公平さ(意見は、根拠で比べられること)/安心(暮らしの土台が揺れないこと)
記入例3のように、迷いがまだ続いていても大丈夫です。迷っていること自体が、「好奇心」と「安心」の両方が自分にとって大事だと教えてくれています。
見つけた価値観を、毎日の中で使う
3つの言葉が決まったら、使いどころは大きく2つあります。
ひとつは、迷ったときの判断の手がかりにすることです。次に迷ったとき、「この選択は、3つの言葉のどれを大切にすることになる?」と考えてみてください。答えがすぐに出ない場面でも、何と何の間で迷っているのかが分かるだけで、考えが整理されます。人の意見や評価に振り回されやすいと感じる人は、自分軸の作り方もあわせて読んでみてください。
もうひとつは、目標の立て方に生かすことです。「資格を取る」「売上を上げる」のような目標も、自分の価値観とつながっていると、続ける理由がはっきりします。たとえば「成長」を大切にする人なら、「去年の自分にはできなかった仕事を、1つ任せてもらえるようになる」のように、価値観の言葉から目標を書き起こすこともできます。具体的な書き方は、目標の例文30選や理想の自分になるノートの書き方で紹介しています。
また、価値観は一度見つけて終わりではありません。毎日の小さな出来事について、「今日いちばん気持ちが動いたことは?」と1行だけ書く習慣は、価値観を見つけるふりかえりワークでも紹介しています。価値観以外の面から自分を知りたいときは、自分を知る質問40も使ってみてください。
ふりかえりの習慣化を、AIが伴走する。Stockrをはじめる毎日の1行がたまるほど、自分の価値観が見えてくる
この記事のステップ1でいちばん時間がかかるのは、「最近、心が動いた場面」を思い出すところです。逆に言えば、その日に気持ちが動いたことを1行ずつ残しておけば、価値観を知るための材料は毎日たまっていきます。
その置き場所として、ふりかえりジャーナリングアプリStockrを使ってみるのもひとつの方法です。Stockrでは、その日の出来事や感じたことを1行からストックとして残せます。書くことが浮かばない日は、AIと話しながら文章にまとめることもできます。
はじめに大切にしたい価値観の言葉を選んでおくと、毎日開くホーム画面に、自分のビジョンと一緒に表示されます。また、ストックが5件たまると、最近のストックからAIが価値観を読み取る「価値観ワード診断」を試せます。自分で選んだ3つの言葉と、書きためた言葉から見えてきた価値観を比べてみると、ステップ3の確かめにも使えます。
まずは今夜、最近いちばん気持ちが動いた場面を1つだけ書き出してみませんか。その場面で「何が守られたのか」を1行書き足せたら、自分の価値観を知る最初の手がかりが、もう見つかっています。