朝、会社に向かう電車の中で「この仕事、やっぱり向いてないのかも」と思う。また同じところで注意されて、周りの人は普通にこなしているのに、自分だけがいつまでも追いつけない気がする。
辞めたほうがいいのか、もう少し続けたほうがいいのか。考え始めると、どちらの答えにも「でも」がついてきて、結局また次の朝が来る。そんなふうに、答えの出ない問いを毎日持ち歩いていないでしょうか。
もし今そうだとしたら、ひとつ試してほしいことがあります。「向いているか、向いていないか」を決める前に、その「向いてない」の中身を仕分けてみることです。同じ「向いてない」という言葉の中に、実はまったく違う理由がいくつも混ざっていることがよくあります。この記事では、その仕分け方と、仕分けを確かめるための2週間の書き出し、そして仕分けごとに打てる次の手を紹介します。
「向いてない」と感じるとき、頭の中で起きていること
「向いてない」と感じるきっかけは、たいてい具体的な出来事です。会議でうまく説明できなかった、ミスを指摘された、先輩の手際のよさを見て落ち込んだ。ところが、そのしんどさを抱えたまま1日を終えると、出来事はいつの間にか「自分はこの仕事に向いてない」という大きな結論にまとまってしまいます。
ここで起きているのは、小さな出来事が、仕事全体への評価にふくらんでいくということです。説明が苦手だったのは「人前で話す場面」だけかもしれないし、ミスが続いたのは「まだ覚えきれていない手順」があるからかもしれません。けれど頭の中だけで考えていると、その区別がつかないまま、「向いてない」という一言だけが残ります。
そして、一言にまとまった「向いてない」には、打てる手がありません。辞めるか、我慢するか。選択肢がその2つしかないように見えるので、どちらも選べずに苦しくなるのです。
「向いてない」を3つに仕分ける
「向いてない」の中身は、大きく分けると次の3つのどれか、あるいはその組み合わせです。
仕分け1: 仕事の「中身」が合わない
ひとつ目は、作業そのものとの相性です。細かい数字を何時間も確認する作業がどうしても苦痛、毎日初対面の人に電話をかけるのがつらい、決まった手順を正確に繰り返すより、新しいことを考えるほうが性に合う。こうした「作業の種類」に対する違和感は、慣れても薄れにくいのが特徴です。
ただし、ここで見てほしいのは「仕事全体」ではなく「作業の単位」です。同じ営業職でも、提案書を作る時間は好きで、電話をかける時間だけがつらい、ということはよくあります。合わないのが仕事の一部分なのか、ほとんど全部なのかで、次の手は大きく変わります。
仕分け2: 人や環境が合わない
ふたつ目は、仕事の中身ではなく、周りの人や職場の環境との相性です。上司の指示の出し方と自分の受け取り方がかみ合わない、質問しにくい雰囲気がある、評価の基準がよくわからない、残業が続いて考える余裕がない。こうした理由でしんどいとき、人は「この仕事が向いてない」と感じがちですが、実際に合っていないのは仕事ではなく、その仕事をしている場所かもしれません。
見分けるヒントは、「同じ作業を、別の人と・別の環境でやったら、どう感じるか」を想像してみることです。そこで気持ちが軽くなるなら、仕分け2の可能性があります。
仕分け3: まだ「慣れの途中」にいる
みっつ目は、向き不向きではなく、単純に時間が足りていないケースです。新しい部署に移ったばかり、任される仕事の範囲が広がったばかり、という時期には、できないことが目につくのは自然なことです。
慣れの途中にいる人は、周りの人と比べて落ち込みやすくなります。けれど、比べている相手は、何年も前に同じ段階を通り過ぎた人です。比べる相手を「1か月前の自分」に変えると、たとえば「先月は手順書を見ないとできなかった作業が、今は見ずにできる」といった差が見つかることがあります。そうした差が見つかるなら、それは向いていない証拠ではなく、慣れが進んでいる途中の証拠です。
心の声から仕分けを当ててみる
自分の「向いてない」がどれに近いか、よく出てくる心の声から当たりをつけてみましょう。
| よく出てくる心の声 | 近い仕分け | 確かめるときの問い |
|---|---|---|
| 「この作業をしている時間が、とにかく長く感じる」 | 仕分け1(中身) | どの作業のときに、時間が長く感じるか |
| 「何回やっても、この種類の作業だけは好きになれない」 | 仕分け1(中身) | 好きになれないのは、作業の一部か、ほとんど全部か |
| 「あの人と話すと、自分が何もできない気がする」 | 仕分け2(人・環境) | 同じ作業を別の人とやったら、どう感じるか |
| 「頑張っても、何を評価されているのかわからない」 | 仕分け2(人・環境) | 評価の基準を、誰かに聞いたことがあるか |
| 「周りはできているのに、自分だけできない」 | 仕分け3(慣れの途中) | 1か月前の自分と比べて、できるようになったことは何か |
| 「覚えることが多すぎて、追いつけない」 | 仕分け3(慣れの途中) | 覚えきれていない手順は、具体的にどれか |
表を眺めて「全部当てはまる」と感じた人もいるかもしれません。それで大丈夫です。3つが混ざっているからこそ、ひとまとめの「向いてない」になっていたのです。どれがいちばん大きいのかは、頭の中で考えるより、次の書き出しで確かめるほうが確実です。
仕分けを確かめる、2週間の書き出し
仕分けを確かめるために、2週間だけ、仕事が終わったあとに次の3行を書いてみてください。1行ずつで十分です。
- 今日いちばんしんどかったこと(例: 午後の会議で、数字の根拠を聞かれて答えられなかった)
- 今日少しでもうまくいったこと(例: 先週より早く、見積もりの資料を仕上げられた)
- しんどかったことは、どの仕分けに近いか(例: 仕分け3。資料の数字の出どころを、まだ覚えきれていない)
ポイントは、しんどかったことと同じだけ、うまくいったことも書くことです。「向いてない」と感じている時期は、うまくいったことが記憶に残りにくくなっています。書かなければ、その日の小さな前進は、しんどかった出来事に上書きされて消えてしまいます。
働く人たちに毎日の出来事を日記に書いてもらった研究では、238人から集めた約12,000日分の記録を分析した結果、気持ちや意欲がいちばん上向いた日に最も多く起きていたのは、意味のある仕事が少しでも前に進んだという出来事でした。しかも、その前進の多くは小さなものだったと報告されています。毎日「うまくいったこと」を1行書くのは、この小さな前進を見落とさないための仕組みです。
2週間たったら、書きためた記録を読み返して、3行目の仕分けを数えてみてください。仕分け1が多いのか、仕分け2が多いのか、仕分け3が多いのか。頭の中では「全部しんどい」だったものが、どこがしんどくて、どこはそうでもないのかという地図に変わっているはずです。
仕分けごとに、次に打てる手
仕分けが見えてきたら、それぞれに合った手を打つことができます。辞めるか我慢するかの二択ではなく、その間にある選択肢が見えてくるはずです。
仕分け1が多かったら: 仕事の「やり方」を少し変えてみる
合わないのが仕事の一部分なら、まずはその部分のやり方を少しだけ変えてみる余地があります。苦手な作業を午前中の集中できる時間に寄せる、得意な人に進め方を聞いてみる、苦手な作業の一部を得意な作業と交換できないか相談する、といった具合です。
このように、自分の仕事の進め方や人との関わり方、仕事の捉え方を自分から少し変えていく工夫は、働く人の研究で「ジョブ・クラフティング」と呼ばれています。100を超える調査をまとめた分析では、こうした工夫をしている人ほど、仕事に前向きに打ち込めている傾向があると報告されています。一方で、書き出してみて合わない作業がほとんど全部だったなら、それは仕事の種類そのものを考え直す材料になります。その場合も、2週間の記録の中に「この作業だけは苦にならなかった」という手がかりが残っていれば、次の仕事を選ぶときの軸になります。その軸を言葉にするための自己分析の手法は、自己分析マップで、いまの場面や知りたいことから選べます。
仕分け2が多かったら: 人や環境を変える選択肢を持つ
しんどさの多くが人や環境から来ているなら、仕事を変える前に、環境を変える手を考えてみてください。評価の基準を上司に聞いてみる、相談しやすい先輩を1人見つける、異動の希望を出してみる。それでも変わらないときは、同じ仕事を別の職場でする、という選択肢もあります。
このとき、書きためた記録が役に立ちます。「何がしんどいのか」を具体的な出来事で説明できると、上司や信頼できる人に相談するときにも話が伝わりやすくなります。1on1のような面談の前に記録を読み返しておくと、話したいことを整理しやすくなります(1on1の前に5分、話すことを整理する振り返りメモも参考にしてみてください)。
仕分け3が多かったら: 「うまくいったこと」を書き続ける
慣れの途中にいるなら、いちばん効くのは時間と、前進の記録です。「うまくいったこと」の行を書き続けると、1か月前の自分との差が目に見えるようになります。周りと比べて落ち込んだ日も、読み返せば自分が確かに進んでいることを確かめられます。
自信は、何かを成し遂げた瞬間に突然つくものではなく、小さな「できた」を自分で確かめるたびに少しずつ貯まっていくものです。その貯め方は、「自分に自信がない」を克服するためのヒントでも詳しく紹介しています。
書き出すときに、気をつけたいこと
書き出しは判断の材料を集めるためのもので、それ自体が答えを出してくれるわけではありません。最後に、気をつけたいことを3つ挙げておきます。
まず、眠れない日が続く、食欲が落ちた、朝どうしても体が動かないといった心や体のサインが出ているときは、書き出しよりも休むことを優先してください。2週間様子を見る必要はありません。早めに医師や会社の産業医、相談窓口などの専門家に相談することをおすすめします。
次に、しんどい日の記録だけで結論を出さないことです。疲れている日に書いた1行は、どうしても暗い色になります。2週間の記録を通して読むと、1日だけでは見えなかった傾向が見えてきます。
最後に、仕分けの結果が「辞める」を指していたとしても、それは失敗ではありません。何がしんどくて、何なら続けられるのかを自分の言葉で説明できる状態で次を選ぶのと、「なんとなく向いてない」のまま次を選ぶのとでは、次の職場での納得感がまったく違います。自分にとって大切なものを言葉にしておきたい人は、自分軸で生きるためのヒントや、自分と向き合う振り返りの質問60選もあわせて使ってみてください。
毎日の1行を、判断の材料に変える「Stockr」
「しんどかったこと」「うまくいったこと」「どの仕分けか」。この3行を毎日続けるのを支えるのが、ふりかえりノートアプリ「Stockr」です。
仕事が終わった帰り道に、スマートフォンから1行のストックとして残せます。求めたときにはAIがコメントで伴走してくれるので、書いた出来事を別の角度から眺めるきっかけにもなります。書きためた記録は「再発見」として過去のストックが自動で戻ってくるので、「1か月前の自分は、ここでつまずいていたのか」と、慣れの途中で進んだ距離にまた出会えます。
「向いてない」の一言を、自分の言葉で説明できる地図に変えるために。今日の仕事のことを、まず1行書いてみませんか?