10月は、上期の評価面談があったり、年末に向けて転職サイトの広告が目に入り始めたりして、自分のこれまでの仕事をふと振り返りたくなる時期です。そこで「キャリアの棚卸しをしよう」と思い立ち、ネットで見つけたフォーマットに入社してからの業務や実績を書き出してみたものの、きれいに並んだ表を前に「で、私はこれから何がしたいんだっけ」と手が止まってしまった。そんな経験はないでしょうか。
実績を並べた表は、職務経歴書を書くときには役に立ちます。けれど、次の選び方を考えるための材料としては、ひとつ足りないものがあります。それは、その仕事をしていたとき、自分がどう感じていたかです。同じ「プロジェクトを成功させた」でも、夢中になって走り切った仕事と、歯を食いしばって終わらせた仕事とでは、次に選びたい仕事のヒントがまったく違います。
この記事では、やったことの横に「手応え」と「消耗」の列を足した、5つの列のキャリアの棚卸しワークシートと、各列を埋めるための質問を20個まとめました。全部を一度に書く必要はありません。直近の1年分を、今日1行書くところから始めてみませんか。
キャリアの棚卸しは「やったこと」と「どう感じたか」を並べる作業
キャリアの棚卸しとは、これまでの仕事の経験を書き出して、自分が何をしてきたか、何ができるのか、これから何をしたいのかを整理する作業のことです。転職の準備として語られることが多いのですが、いまの職場で次の役割を考えるときや、なんとなく働き方に迷いが出てきたときにも役立ちます。
よくある棚卸しのフォーマットは、「時期・所属・担当業務・実績」の列でできています。これは人に見せるための整理としてはとても優れています。ただ、自分の次の選び方を考えるために使おうとすると、どの経験も同じ重さで並んでしまい、「どれが自分らしい仕事だったのか」が表から読み取れません。
そこでこのワークシートでは、やったことの横に、その仕事をしていたときの手応え(時間を忘れた、またやりたいと思った)と消耗(終わったあとにぐったりした、二度とやりたくないと思った)を書く列を設けています。自分の気持ちまで書き出すことには、次の一歩への構え方を変える力があるかもしれません。
アメリカで行われた研究では、職を失ったばかりの専門職の人たち63人に協力してもらい、一方のグループには「失業についての考えや気持ち」を1日20分、5日間書いてもらいました。比べたのは、ありふれた話題を書いた人たちと、何も書かなかった人たちです。その後を追いかけると、気持ちを書いたグループのほうが、早く次の仕事に就いていました。面接の回数が増えたわけではなく、前の仕事や新しい仕事への向き合い方が変わったことが関係していたと報告されています。
この研究は失業という特別な場面のものなので、棚卸しの効果をそのまま示しているわけではありません。それでも、仕事についての気持ちを言葉にすることが、次の仕事に向かうときの構えに影響しうるという点は、棚卸しに「どう感じたか」の列を足す理由になると考えています。
ワークシートの5つの列
ワークシートは、次の5つの列でできています。紙でもスプレッドシートでもかまいません。1行が「ひとつの仕事の経験」です。
| 列 | 書くこと | 書き方の目安 |
|---|---|---|
| ① 時期 | いつのことか | 「2024年春」「異動して最初の半年」など、ざっくりで十分 |
| ② 出来事 | 何をしたか・何を任されたか | 「新人3人の教育係を任された」のように1行で |
| ③ 工夫 | 自分なりに考えて変えたこと | 「マニュアルを作らず、毎日10分の振り返りの時間にした」 |
| ④ 手応え/消耗 | そのときどう感じたか | 「教えた相手ができるようになったとき、いちばんうれしかった」「毎週の報告資料づくりで消耗した」 |
| ⑤ 分かること | そこから見える自分の傾向 | 「人ができるようになる瞬間に立ち会うのが好き」 |
記入例を2行だけ置いておきます。
| ① 時期 | ② 出来事 | ③ 工夫 | ④ 手応え/消耗 | ⑤ 分かること |
|---|---|---|---|---|
| 入社3年目 | 新人3人の教育係を任された | 手順書を渡すより、毎日10分だけ「今日わからなかったこと」を聞く時間をつくった | 手応え:3か月後に新人が一人でお客さんに説明できたとき、自分の成果よりうれしかった | 人ができるようになる瞬間に立ち会うことに、やりがいを感じる |
| 入社4年目 | 部署の月次報告の資料づくりを担当 | 前月のファイルをコピーして数字を差し替えるだけにした | 消耗:誰にも読まれていない気がして、毎月ぐったりした | 相手の反応が見えない仕事は、短時間でも消耗が大きい |
ポイントは、④の列を書いてから⑤を書くことです。⑤だけを先に考えると「コミュニケーション能力」「調整力」のような、どこかで見た言葉に流れやすくなります。④に書いた具体的な場面から⑤を引き出すと、自分の言葉で傾向をつかめます。
書き方の手順
ワークシートは、次の3つの手順で埋めていきます。
ひとつめは、時期を区切ることです。1年ごと、または異動や担当替えのタイミングごとに①の列を先に埋めてしまいます。最初は直近3年くらいで十分で、昔の時期は書き終えてから必要に応じて足せば大丈夫です。
ふたつめは、②と③を1行ずつ埋めることです。1つの時期に1〜3行が目安です。思い出せない時期は飛ばしてかまいません。仕事のメモや手帳、カレンダー、送ったメールを眺めると、忘れていた出来事が意外なほど出てきます。
みっつめは、④を書いてから⑤を書くことです。④は「よかった・大変だった」ではなく、そのとき浮かんでいた場面と気持ちを、できるだけそのまま書きます。⑤は、④を読み返して「つまり自分は、こういうときに力が出る(または削られる)らしい」と思えたことを1行にします。
手が止まったときは、次の章の質問を使ってください。
列ごとの質問20
ここからは、ワークシートの各列を埋めるための質問です。上から順番に答える必要はありません。いま止まっている列の質問から、答えやすいものをひとつ選んでください。
出来事を思い出す質問(②の列)
- この1年で、いちばん時間を使った仕事は何でしたか?
- 「これは自分が任された」と言える仕事は何でしたか?
- 想定外のトラブルや、急な依頼で動いた場面はありましたか?
- 人から「ありがとう」と言われた仕事は何でしたか?
工夫を掘る質問(③の列)
- 前任者や周りのやり方から、自分で変えたことはありますか?
- 「もっと楽にできないか」と考えて試したことは何ですか?
- うまくいかなかったとき、次に何を変えましたか?
- 頼まれていないのに、自分からやったことはありますか?
手応えを拾う質問(④の列)
- 時間を忘れて取り組んでいた仕事は何でしたか?
- 終わったあと「またやりたい」と思った仕事は何でしたか?
- 誰かに話したくなった仕事の出来事は何でしたか?
- 自分の成果でなくても、うれしかった瞬間はありましたか?
消耗を拾う質問(④の列)
- 終わったあと、いちばんぐったりした仕事は何でしたか?
- 「この仕事は、できればやりたくない」と感じたのはどんな場面でしたか?
- 時間は短いのに、なぜか疲れが残った仕事は何でしたか?
- 前の日の夜から気が重くなっていた予定は何でしたか?
次の選び方につなげる質問(⑤の列)
- 手応えの列に、何度も出てくる言葉や場面はありますか?
- 消耗の列に、共通している条件(相手・進め方・時間帯など)はありますか?
- 手応えがあった仕事を、もう少し増やすとしたら何ができそうですか?
- 消耗した仕事を、減らす・やり方を変える・誰かと分けるとしたら、どれができそうですか?
17〜20の質問は、表がある程度埋まってから答えると、答えが具体的になります。
書き終えた表の読み方
表が埋まったら、⑤の列を上から読んでみてください。同じような言葉が何度も出てくるなら、それが時期や職場が変わっても変わらない、自分の力が出る条件です。消耗の側に繰り返し出てくる条件も同じくらい大切で、次に仕事を選ぶとき、引き受けるときの「避けたい条件」になります。
ここで、⑤の列から言えることを3つまでに絞ってみることをおすすめします。たとえば「人ができるようになる瞬間に立ち会いたい」「相手の反応が見える仕事がいい」「締め切りに追われ続ける働き方は削られる」のように、です。3つに絞ると、求人票を見るときにも、いまの職場で次の役割を相談するときにも、判断の物差しとして持ち歩けます。
棚卸しは、転職するか残るかを決める作業ではありません。決めるための材料をそろえる作業です。表を書いて「やっぱりいまの仕事のこの部分が好きだ」と気づくこともあれば、「この条件の仕事はもう選ばない」とはっきりすることもあります。「向いていないのかも」という気持ちが先に立っている人は、「仕事、向いてないのかも」と思ったらで、辞める前に書き出したい仕分けも紹介しています。
価値観をもう一段深く言葉にしたい人は価値観を見つけるふりかえりワークを、仕事に限らず自分の傾向を知りたい人は自分を知る質問40を組み合わせてみてください。モチベーショングラフやキャリアアンカーなど、棚卸しと組み合わせやすい自己分析の方法は、自己分析マップで目的から選べます。
棚卸しを「年に1回の大仕事」にしないために
キャリアの棚卸しでいちばん大変なのは、昔のことを思い出すところです。1年前の仕事で何を工夫したか、そのときどう感じたかは、半年もたつとほとんど忘れてしまいます。だからこそ、思い出せないまま書いた表は、実績だけが並んだ表に戻ってしまいがちです。
もし日々の仕事のなかで、手応えがあったことや消耗したことを1行ずつ残しておけたら、棚卸しは「思い出す作業」から「集める作業」に変わります。仕事の振り返りの書き方で紹介している日報や週報の型も、そのまま棚卸しの材料になります。1on1や評価面談の前に、直近の手応えと消耗を眺めておく使い方は1on1の前に5分の振り返りメモでも紹介しています。
Stockr(ストッカー)は、こうした1行を気軽に残しておけるふりかえりノートアプリです。その日の出来事と気持ちを1行ストックしておくと、過去に書いた記録が「再発見」として自動で戻ってくるので、半年前の自分がどんな仕事に手応えを感じていたかに、また出会えます。書いた内容について、求めたときにはAIがコメントを返してくれるので、自分では気づかなかった傾向に目を向けるきっかけにもなります。
次の棚卸しを、ゼロから思い出す作業にしないために。今日の仕事でいちばん手応えがあったこと、または消耗したことを、1行だけ書いておきませんか。