「あの人みたいに、もっと早く前に進めたらいいのに」。SNSを開いたら、同期が新しいプロジェクトのリーダーになったという投稿が流れてきた。友人の転職や結婚の報告に「おめでとう」と返したあと、なぜか自分の今日が急に色あせて見えた。就職活動中なら、周りの内定の報告が続くたびに、まだ何も決まっていない自分だけが取り残されているように感じる。そんな経験はないでしょうか。
人と比べて焦ってしまうと、多くの人は「比べるのをやめよう」「自分は自分」と言い聞かせようとします。けれど、比べる気持ちは言い聞かせただけではなかなか止まってくれません。止まらないまま自分を責めると、焦りに、うまく割り切れない自分への落ち込みが重なってしまいます。
この記事では、比べることを無理に止めるのではなく、比べたあとに3行だけ書いて、うらやましさを自分の一歩に変える方法を紹介します。場面ごとの書き方の例も載せているので、今日比べてしまった出来事があれば、そのまま当てはめて書いてみませんか。
人と比べてしまうのは、自分の位置を確かめたいから
心理学では古くから、人は自分の力や意見がどのくらいのものなのかを確かめたいとき、はっきりした物差しがなければ、身近な人と比べて確かめようとする、と考えられてきました。テストの点数のように答えが決まっていることなら比べる必要はありませんが、「仕事で前に進んでいるか」「自分の選んだ道で大丈夫か」には、決まった物差しがありません。だから、物差しの代わりに周りの人を見てしまうのです。
つまり、人と比べてしまうこと自体は、自分の位置を確かめようとする自然な動きです。問題になるのは、比べたあとに焦りだけが残って、自分の行動に何もつながらないときです。比べる気持ちをなくそうとするよりも、比べたあとの扱い方を変えるほうが、ずっと現実的です。
焦りが強くなりやすい3つの場面
同じように人と比べても、焦りがふくらむ日と、それほど気にならない日があります。焦りが強くなりやすいのは、次のような場面です。
他人の「結果」だけを眺めているとき
SNSに流れてくるのは、昇進や合格、新しい挑戦の報告のように、たいていは結果の場面です。そこに至るまでの迷いや失敗は、ほとんど流れてきません。結果だけを集めて眺めていると、自分の「途中」と他人の「結果」を比べることになり、差が実際以上に大きく見えてしまいます。
アメリカの大学の研究チームは、SNSを使う人たちに協力してもらい、実験と、日常のなかで1日に何度も気分をたずねる調査を行いました。その結果、投稿したりやり取りしたりせずに、ただ眺めるだけの使い方をしたあとは、気分が下がりやすく、その間にはうらやましさの高まりがはさまっていたと報告されています。眺めるだけの時間が長い日ほど、焦りを感じやすいのは、気のせいではないのかもしれません。
自分の側の記録が手元にないとき
比べる相手の様子はSNSや会話で次々に入ってくるのに、自分がこの数か月で何をしてきたかは、思い出そうとしてもすぐには出てきません。すると、天秤の片側にだけ材料が積まれた状態になります。自分の前進を確かめる材料がないと、比べるたびに負けた気持ちになりやすいのです。
自分にはとても届かないと感じているとき
相手との差が大きすぎて「自分には無理だ」と感じているとき、比べた気持ちは焦りやあきらめに傾きます。反対に、「自分にも届きそう」と思える差なら、同じ比較が「やってみよう」という気持ちにつながることがあります。この違いは、次の章で紹介する3行の書き方の核になっています。
比べたあとに書く「3行」
人と比べて焦った日は、その出来事を思い出しながら、次の3行を書いてみてください。1行ずつ、思いついた言葉のままで大丈夫です。
- 何がうらやましかったか(相手のどこに、心が動いたか)
- 前の自分から進んだこと(3か月前の自分と比べて、できるようになったこと)
- 明日の自分にできる一歩(うらやましかったことに、ほんの少し近づく行動)
1行目:何がうらやましかったか
最初の1行は、相手の「何が」うらやましかったのかを、できるだけ具体的に書きます。「同期がすごい」ではなく、「同期が、自分で手を挙げて新しい企画を任されたこと」のように書くと、自分が何を欲しがっていたのかが見えてきます。
うらやましさは、誰に対しても同じように湧くわけではありません。自分も欲しいと思っているものを持っている人に対して、強く湧く気持ちです。だから、1行目に書いた言葉は、裏返すと「自分が本当はこうありたい」という願いの言葉になっていることがよくあります。
2行目:前の自分から進んだこと
2行目では、比べる相手を他人から少し前の自分に置き直します。「3か月前の自分は、会議で一度も発言できなかった。今週は一度、意見を言えた」のように、小さなことで構いません。
他人と比べると、相手の見えている部分と自分の全部を比べることになりますが、前の自分となら、同じ物差しで比べることができます。1行目の焦りをそのままにせず、天秤のもう片側に自分の材料を置いてあげる行だと考えてください。思い出せないときは、「今日、昨日より少しだけうまくいったこと」でも大丈夫です。
3行目:明日の自分にできる一歩
最後の行は、1行目に書いたうらやましさに、ほんの少し近づく行動を書きます。ポイントは、明日の自分が「これならできる」と思える大きさにすることです。「来月までに企画を通す」ではなく、「明日、気になっている企画のアイデアを3つメモする」くらいの大きさです。
オランダの大学の研究チームは、自分より優れた人と比べたときに生まれる気持ちを、悪意を含まない「前向きなうらやましさ」と、ただ相手を「すごい」と思う「あこがれ」とに分けて調べました。前向きなうらやましさを感じた人は、もっと勉強しようという気持ちが強く、課題の成績もよかったと報告されています。ただし、その効果が見られたのは、自分も努力すれば届きそうだと思えるときだけでした。届かないと感じているときは、相手をあこがれの目で見るだけで、やる気にはつながらなかったそうです。
3行目を「届きそうな大きさ」にするのは、このためです。うらやましさを、自分にも届く一歩の形にしてあげると、焦りが次の行動に変わりやすくなります。
場面別:3行の書き方の例
実際に書くときのイメージとして、よくある場面ごとに例を挙げます。言葉づかいは、自分の口ぐせに直して使ってください。
| 場面 | 1行目:何がうらやましかったか | 2行目:前の自分から進んだこと | 3行目:明日の自分にできる一歩 |
|---|---|---|---|
| 同期の昇進・抜擢 | 同期が、自分から手を挙げて新しい企画を任されたこと | 3か月前は会議で黙っていたけれど、今週は一度、意見を言えた | 明日の定例で、気になっている改善点を1つだけ話す |
| 就職活動で周りの内定が続く | 友人が、自分のやりたいことをはっきり言葉にして面接に臨んでいたこと | 先月は自己PRが1行も書けなかったけれど、いまは3つ候補がある | 明日、候補の1つについて、具体的なエピソードを1つ書き出す |
| 友人の転職・独立 | 友人が、好きなことを仕事にする道を自分で選んだこと | 半年前は不満を言うだけだったけれど、いまは何が嫌なのかを言葉にできる | 今週末、気になっている分野の本を1冊だけ選んで買う |
| SNSで見る充実した暮らし | 知人が、平日の朝に走る習慣を続けていること | 先月より、夜ふかしする日が少し減った | 明日の朝、家の周りを10分だけ歩いてみる |
| 同じ趣味の人の上達 | 同じ時期に始めた人が、もう人前で発表していること | 始めたころより、ひとりで練習できる時間が長くなった | 明日、いま練習している部分を一度だけ録音して聞いてみる |
例を見ると分かるとおり、1行目のうらやましさは人によってまったく違います。同じ「同期の昇進」でも、ある人は「任されたこと」に、別の人は「周りに頼られていること」に心が動きます。何に心が動いたかを書き分けることが、自分の願いを知るいちばんの近道です。
比べてしまった日の、気持ちの戻し方
3行を書いても、すぐには焦りが消えない日もあります。そんな日は、次のような小さな工夫を足してみてください。
ひとつは、眺める時間に区切りをつけることです。SNSを見ていて気持ちがざわついたら、その場でスクロールを止めて、3行のうち1行目だけでも書いてみます。眺めるだけの時間を、自分の言葉を書く時間に切り替えるだけでも、気持ちの向きが変わります。
もうひとつは、書いた3行を、少し時間をおいてから読み直すことです。1週間前の3行を読むと、そのときの焦りが少し遠く感じられたり、「明日の一歩」が実際にできていたことに気づけたりします。比べる相手を前の自分に置き直す2行目の材料は、こうした記録から集まっていきます。
人と比べたことがきっかけで、「自分にはこの仕事が向いていないのかもしれない」と感じている人は、「仕事、向いてないのかも」と思ったらで、辞める前に書き出したい仕分けを紹介しています。比べてばかりで自分に自信が持てないと感じている人は「自分に自信がない」を克服するための5つのヒントを、周りの目が気になって自分で決められないと感じている人は自分軸で生きるにはもあわせて読んでみてください。
1行目に書いたうらやましさを、もう少し深く掘ってみたい人には、自分を知る質問40が役立ちます。3行目の一歩を、期日つきの目標の形に育てたいときは目標の例文30選も参考になります。
3行を書きためて、前の自分と比べられるように
2行目の「前の自分から進んだこと」は、記録が手元にあるほど書きやすくなります。3か月前の自分が何に悩み、何ができなかったのかは、残しておかなければ思い出せないからです。
Stockr(ストッカー)は、こうした1行を気軽に残しておけるふりかえりノートアプリです。その日の出来事と気持ちを1行ストックしておくと、過去に書いた記録が「再発見」として自動で戻ってくるので、少し前の自分が何に焦り、そこからどう進んできたのかに、また出会えます。書いた内容について、求めたときにはAIがコメントを返してくれるので、自分では気づかなかった前進に目を向けるきっかけにもなります。
人と比べてしまった今日を、焦りだけで終わらせないために。何がうらやましかったのかを、まずは1行だけ書いてみませんか。